2009年12月4日金曜日

ひたすら売れれば良いというものでもない、の考察

先日、10年前からおつきあいがあるお客さんから、アドバイスを戴いたのですが、非常に興味深いお話しでしたので、ほぼそのまま書いてみます。
事業をされている方は、おそらくほぼ知っている話か、うすうす気づいているかもしれません。



まず上のグラフをご覧いただきましょう。一般的に言って、どんな商売でも売り上げが低いうちは利益はあまり出るものではなく、赤の利益曲線は鈍いです。というのは一定の固定費というものがかかるからです。
だんだん売り上げが上がってくると、利益も増えてきて、利益曲線はグンと上を向いて伸びてきます。ボチボチ忙しいという程度では、収支はトントン程度ですが、「死ぬほど忙しい」というぐらいになると、赤で塗りつぶされた部分「Sweet Spot」に入ります。Sweet Spot:すなわち読んで字のごとく「おいしい部分」ですね。

工場の場合ですと、理屈としては(実際はそう単純ではありませんが)、生産が上がって、売り上げが上がれば、利益曲線もそれに応じて右肩上がりとなります。

しかしながら、当店のような工房というか、職人仕事の部分もある程度入っている事業となると(ちなみに私は自分が職人だと思ったことはありませんが)、売り上げがひたすら上がれば、利益もひたすら上がる、というわけではなく、ある点を超えると今度はだんだん生産効率が悪くなってきて、Sweet Spotから外れてしまうという大変な危険性があります。
当店のような仕事では、生産力というのは人を増やした程度で簡単に上がるものではありません。ある程度仕事に習熟しないと仕事は決して捗らないです。当店程度でも、私が見ていないでもすべて任せられるぐらいになるには2年ぐらいはかかるのではないかな、と思います。まあ高い人件費を払って、職人を連れてきてしまうとか、外注に振ってしまうという手がないわけではないのですが、その分、利益率は落ちる可能性も高いです(逆に上がる可能性も充分ありますが)。
利益率が悪くなる理由は人件費であったり、在庫だったり、家賃だったり、そういう要素:経費です。

そうなると仕事を増やして増やして、それをこなしてもこなしても利益はちっとも上がらない、という大変な状態に入ってしまいます。

ただSweet Spotの見極めは、実際のところ非常に難しいです。現実は単純なラインを描くのではなく、景気動向、給料日やボーナスなどの消費意欲、流行、販売力、口コミ、評判さらには天気気候などなど様々な思惑やら力が錯綜して波打ったラインが重なり合い、私などわけもわからず手綱を引いたり緩めたりと、試行錯誤や右往左往するのですなあ。
大きなところはしっかりデータを取って、その中に法則性を見つけ経営に役立てているのですが、うちのような小さなところは、才覚一つでやっていると言えば格好いいですが、正直に言うとカンでやっているわけです。自分でも呆れたものだと思いますが、だから小さいんです。

当店の問題は、生産力がそれほど高くないので、急にヒット商品が出たりすると、生産が間に合わず大変な思いをして、それに対して機敏に生産力を上げたり出来ずブーイングを浴びるたりもするのですが、「この民主党政府の政策じゃあ、当分景気は悪くなる一方だろうなあ」という空気が濃厚な中で、当店程度の事業で規模を大きくしようなどという博打は、よほど向こう見ずな人間でもない限り、そうそうやれるものでもありません。正直、ビジネスで博打に出るとか出ざるを得ないシーンってのは敗色が強い時じゃないのかなぁ、という気がします。勢いがついているうちに大きく出てみる必要性も当然あるかと思いますが、別に今それを無理してやることもないんじゃないかな、という気分です。

こんなわけで、なかなか簡単にもいかない理由も多少ご理解いただけるのではないかと思います。つまり、ひたすら売れればよいというものでもない、と。









 二頭波頭立波