2010年6月27日日曜日

試行

何か思いついて、とりあえず試行してみるというのは、なかなか出来るもんじゃありませんが、非常に重要なことだと思います。

昨日思いついたのは、カメラケースの底部分。ここはいつも切りっぱなしなのですが、ケース底のパーツを絞り出して成型したら、もしかしてさらに格好良くなるのではないかと、ふと思いついたので、試行してみました。


ライノでモデリングから始めてみます。凸型と凹型、革の厚み分を考慮したクリアランスは1.5mm。
これぐらいの割と簡単な形状でしたら、 昼飯喰った後の休憩時間に出来るようになりました。ライノが非常に良くできたモデリングツールだからだと思います。ただ2次元は弱いですので、2DのCADを併用します。


こういう形で切削することにします。


切削終わりました。本当にライノ上のモデルと同じものが切削されました。当たり前のことかもしれませんが、それが工房の中で完結してしまうということが、ある意味驚きです。

誰でもその気にさえなれば、こういう環境を揃えることが出来るわけで、まったく便利な世の中になったもんだと実感します。この時代に生きていて本当に幸せだと思いますよ。

革絞り木型を作るために、5年も10年も修行して正確に木を削る方法を覚えるのではなく、必要そうな物を買ってきて、ライノの使い方を2ヵ月ぐらいで覚えて、あとは三次元切削機にデータ放り込んでおしまい。これは一体どこの未来ですか?という感じさえします。


ほんのわずかなことでも、手でカットするのは絶対に嫌ですので、刃型を曲げて作ります。手でカットするなんて素人臭いことをこの俺様が出来るかよ、という勢いです。
製作時間は約10分でしょうか。
以前これぐらいの刃型を刃型屋さんに頼んだ事があるのですが、小さなものだから待っていればすぐ出来るよー、ってな感じで、わずか5分ぐらいで溶接まで完了して、非常に驚いた覚えがあります。
「はい、1000円」
と言われて、1000円かよ、おい!それで商売成り立つのか?と不思議になりました。(もちろんそんなショボい仕事ばっかりやっているわけじゃありませんけど)

その後、自分で刃型も作るようになってわかりましたが、それでも決して損はしない価格なんだなぁ、ということがわかりました。今でも近所に刃型屋があれば、おそらく自分で曲げようとは思わなかったと思います。


前置きだけは長いですが、それらの治具を使って底部分のパーツを作ってみました。




革が絞られて立体成型されているのが、おわかりいただけますでしょうか?
このパーツの側面は普通切りっぱなしの裁断面なのですが、革を絞って側面まで銀面になっております。


裏から見るとこんな感じです。絞ると器のようになるわけですが、その空間部分を埋める心材をカットするためだけに上にある刃型を作ったわけです。


実際に縫製したものの比較です。
上の個体が、今回製作した立体成型底で作ったケース。
下の個体が、従来の切りっぱなし底パーツで作ったケース。


ズームアップ画像です。
左の個体が、今回製作した立体成型底で作ったケース。
右の個体が、従来の切りっぱなし底パーツで作ったケース。

期待したほど綺麗になりませんでした。従来型の方がすっきりしているような気がします。丈夫さで言えば断然左の方が丈夫なのですが多少手間が増えますので、全体的に考えるとこの試行は、残念ながら不採用。
「手間が増えた分、1000円ぐらい値上げします」となって、お客様が納得するかというと、しないと思います。「従来型で良いから値上げしない方が良い」という方が普通じゃないかな。

では、この試行が無駄だったのか?というと、そうでもないんですねえ。
常に新しいこと/違うことを試行していくことが重要なのです。経験値も数ポイントアップしました。今後こういう試行経験が役に立つ場合が、案外多いのです。

1年前は当店ではこんな事は出来ませんでした。 1年前に比べて現在は目に見える進歩がここにあります。ああ俺は40を過ぎているのに確実に進化しているんだ、と実感できると、仕事も人生も大いなるやり甲斐があるってもんです。